コーチングの質問には残念ながらマニュアルがありません。
ですから、レッスン4を学習した後でも具体的にどのような質問をしたらよいか迷うことがあるかもしれません。今日のレッスンで「質問をする際のコツ」を学習してみましょう。
コーチングの質問の仕組み
「人を動かす」という著書で有名なデール・カーネギーは、「人は他人から指示されるとそれに従いたくなくなるが、自分から提案するとそれに従いたくなる」と述べました。
チャイルドコーチングでの質問は子供から情報を得るためではなく、質問によって子供が答えを見つけ出す為に行われます。
そして、子供は自分で答えを見つけ出したり、親に提案したりすると、その決定に従いやすくなります。
ですから、チャイルドコーチングの質問は、子供が自分で答えを見つけ出す方向にデザインしてください。
普通の会話質問の例:
親: どうしてあなたはいつも部屋を片付けられないの?(Youメッセージ、決めつけ、Why+ネガティブセンテンスの答えのないタイプの質問)
子: うるさいなあ、知らないよ。(「親は機嫌が悪いようだ。」「いつもできないというのはひどい。」などの憤慨の気持ち)
チャイルドコーチングの質問例:
親: (お父さん、お母さん)は●●君がきちんと部屋を片付けてくれるととっても助かるよ。どうやったら片付けられるかな?(I(私)メッセージ、オープン・クエスチョン)
子: うーん。だって片付ける時間がないんだもん。
親: そうか。じゃあ、短い時間で片付けるアイディアってなにかある?(共感、オープン・クエスチョン)
子: ボックスか引き出しがもっとあったら片付けやすくなるかも。
親: 確かにそうかもしれないね。どんなボックスがいいかな?(共感、オープン・クエスチョン)
子: ●●君の家にこういうボックスがあってね、それがいいかな。
親 :じゃあ、今度一緒に買いにいってみようか。(行動を促す提案)
子: うん。散らかったおもちゃは、まずそのボックスに入れておけばいいんだ。急いでる時でも片付くと思うよ。
親: そうだね。いいアイディアだと思うよ!(共感、承認)
※上の会話例では、子供に解決策を提案させるような質問を繰り返しました。
その結果、子供は自分で解決策を考えだし、積極的な気持ちでそれを実行しようとしています。
やる気にさせる質問をする
人は自分で肯定な反応をすればするほどポジティブになり、そしてポジティブになると行動する意欲や決意が生まれます。
逆に否定的になると、良いことを考えたり行ったりする意欲や力が失われてしまいます。
ですからチャイルドコーチングでの質問は子供の肯定的(ポジティブ)反応を引き出す質問であるべきなのです。
そのためにも、「どうして~できないの?」「どうしてダメなの」などの相手を否定的な気持ちにさせてしまう質問はさけ、気持ちが明るくなるような質問をしましょう。
いわば、「質問によって子供を褒める」「質問によって子供を受け入れる」と考えてみてください。
肯定的な質問の例:
親: この前おばさんが家に来た時には部屋をすごくきれいに片付けられたよね。あれはどうやったの? (肯定的な質問)
子: あれはね、ボックスに全部入れただけなんだよ!
親: そうなんだ。じゃあ、今度もボックスに入れて片付けられる?
子: 今ややらない。だって、おもちゃはどうせまた使うから出して置いたほうがいいんだ。
親: そうかもしれないね。でもつまづいておもちゃが壊れてしまうかもしれないよ。きちんと片付けても出しやすい方法はあるかな?
子: 使わないおもちゃは押し入れにいれて置いてもいいかもしれない。
親: そうだね。じゃあ、一緒にいれてみようか?しまうおもちゃは●●君が選んでね。
子: いいよ。
※この会話では、まず過去によくできた出来事の説明を求めました。その結果、子供は明るい気持ちで質問に答え、会話も友好的に進んでいきます。
そして、親が一歩踏み込んで問題の解決策を質問したところ、子供は最初の質問の回答に「~できる」と答え、ポジティブな気持ちになっていますので、前向きな気持ちで親の要望に答えることができました。
期待した答えでなくてもOK
もちろん、ここで上げた例に挙げたような模範的な答えがいつも返ってくるとは限りません。
チャイルドコーチングを始めたばかりの時は子供も深く考えることに慣れていませんから、たとえ親から考えぬかれた良い質問をされても「わからない。」「知らない。」という答えしか返ってこないかもしれません。
また、親と真面目に会話をすることにまだ慣れていない場合、子供はわざとふざけたり、期待されるような答えと正反対の答えを返すかもしれません。
これは、自分の考えや気持ちを表明するのに気恥ずかしいだけですので、チャイルドコーチングの質問を続けることにより徐々に改善されていくでしょう。
そして、最初はふざけたり、答えなかったりする子供も、どんどん良い提案を考えついたり、自由に回答したりするようになるでしょう。
ふざけたような答えが返ってきた時は「えー。本当に?」などと、軽い感じで質問しかえしてみてください。
また、「わからない」「考えられない」という答えには、まず、ミラーリングで子供の回答を受け止め、さらに誘い水的な質問をしてみましょう。
会話を誘う質問例:
親: どうやったら部屋を片付けられるようになるかな?(オープン・クエスチョン)
子: うーん、分からない。
親: わからないんだね。(ミラーリングを使って共感)
子: うん。
親: じゃあ、お母さん(お父さん)が一緒に片付けたら片付けられるかな?
(答えに困っているようなので簡単にYes,Noで答えられるクローズド・クエスチョンで助け舟を出しました)
子: うん。
親: 片付ける時、いいアイディアを思いついたら教えてね。やってみよう。
子: うん。
※このように「今思いつかなかったら後で答えてもいいよ」と言っておくと、いったん途切れた会話も後から進展させることができます。
質問を言い換えてみよう
ネガティブな質問が口をついて出そうになったら、その質問をポジティブな質問に変換できないかどうか考えてみてください。
ネガティブな質問例1:
親: どうしてこんな悪い点を取ったの? (Why+否定的内容の質問)
ポジティブな質問例1:
親: ●●ちゃんは国語が得意だったよね?今回のテストは何かあったのかな?(オープン・クエスチョン)
ネガティブな質問例2:
親: もうこんな点はとらないでよ?(答えのない種類の質問、否定的な質問)
子: (頑張ったのにわかってくれない。ひどい)
ポジティブな質問例2:
親: 次はどうやったら良い点が取れるかな?(オープン・クエスチョン、ポジティブ・クエスチョン)
子: 今回だってがんばって勉強したんだよ。でも勉強した範囲が全然でなかったの。
親: そうだったんだ。それは残念だったね。(共感)
子: うん。だから次はテスト範囲全部に目を通せるようにすればいいかな。
親: それができるといいね。じゃあ、テスト範囲全部に目を通すにはどうすればいいの?(オープン・クエスチョン)
子: やっぱり早めにテスト勉強を始めることだと思う。
親: お父さんも●●ちゃんの意見に賛成だよ。どうやってもっと早めにテスト勉強を始めるの?(オープン・クエスチョン)
子: うーん。今回も早めにやろうとは思ってたんだけど、知らないうちにテスト日が迫ってたんだよね。だから、テスト日を手帳に書いて逆算していけばいいかな。
親: それはいいね。じゃあ、一日何ページ勉強すればいい計算になるかな?(オープン・クエスチョンの限定質問)
子: えーと、ちょっと待ってね。計算してみる。一日三ページかな。
親: どれどれ見せて?これだと一日も休みがないスケジュールだけど、平気かな?(Yes,Noを聞くクローズド・クエスチョン)
子: うん。三ページくらいなら日曜日にでもできると思う。
親: 本当に?
子: 本当は火曜日は部活が遅くなるからスケジュールに数えないほうが確実だけど。
親: じゃあ、確実にできたほうがいいから、週6日でテスト勉強のスケジュールを組んでみたら?(子供の案を受けて、提案し直す形で強調、肯定しました)
子: そうだね。
親: お父さんも時々進み具合を確認して●●ちゃんのスケジュールが進むように協力するよ。(行動を補佐する意向を表し、子供の計画に協力する姿勢を示しました)
子: うん。二人で確認すればスケジュールどおりにできそう。その日の勉強が終わったらカレンダーに印をつけとくからお父さんチェックしてよ。
親: わかった。今度のテストが楽しみだね。
子: うん。
※この会話では、「前回のテスト点数が悪かった」「今度は頑張らないといけない」などの否定的要素に注目するのではなく、「どうやったら良い点数が取れるか」というポジティブな質問に変換することで、子供をやる気にさせることができました。
質問は主にポジティブなオープン・クエスチョンを使い、ところどころで軽く返事ができるYes,Noクエスチョンで会話をつなげています。
さらにいくつかの質問により、子供が提案した案を親子二人で調整し、最終的には子供に決断させています。
さらに、子供が行動に移しやすいようにフォローの約束をし会話が終わっています。
会話の最後では、「前回のテストが悪い点だった」という見方から、「次回のテストが楽しみ」という明るい見方に変わっています。
- 人は自分から提案すると行動したくなる
- コーチングの質問は子供が自分から提案を出すための「合いの手」「助け手」
- 場面に合わせYes,Noクエスチョンやオープンクエスチョンを使ってみましょう
