前回のレッスンでは、コーチングの質問にはマニュアルがないことを学習しました。
コーチングの質問は個々の家庭での個々の場面と子供にそってカスタムメイドされなければならないために無数の質問が考えられるからです。
チャイルドコーチングの本を何冊か読まれた方も、いざコーチングの質問をしてみようと思っても、適切な「コーチング質問」が思い浮かばなかった経験があるのではないでしょうか?
コーチングの本では簡単に質問が行われ、スムーズにコーチングが進んで行くように思われたのに、実践では、質問をするステップでつまづいてしまう場合は以下の5つの点を考えてみましょう。
現在、子供に関する情報をどれくらい持っていますか?
子供が考えていることをある程度知らなければ、適切なコーチング質問はできません。
プロのコーチでも、初めて会ってほとんど話を聞いていないクライアントへ効果的な質問をすることはできません。そのような状態で質問するとしたら、当てずっぽうに質問するほかありませんから、質問がクライアントの心に届くことはないでしょう。
ですから、チャイルドコーチングでもまず子供の話をじっくり聞きます。
現在、コーチングで話し合おうと思っている内容と直接関係がなくとも、子供が今、どんなことに興味を持っているか、どんなことに挑戦しようとしているか、どんなことを心配しているのか、幼稚園や学校ではどんな生活をしているのか、友達とはどんな関係を培っているのかといった子供のバックグラウンド情報を知っておくことは良い質問を作る上でとても大切です。
なぜなら、子供のバックグラウンド情報を持っていれば持っている程、親のコーチング質問力は高まるからです。
つまり、普段子供と話す時間を持ち、子供の話を聞けば聞くほど子供のバックグラウンド情報が集まってコーチングが成功するようになるのです。
もちろん、情報を集めるのは個々の子供に親が関心を持つからです。
もし、チャイルドコーチング質問をしようとしてうまくいかない場合は、まだ質問をするだけの情報が子供から聞きだせていないだけかもしれません。
そのような時は無理にチャイルドコーチング質問をする必要はありません。
「ステップ1(聴く)」と「ステップ2(共感する)」の章に戻り、子供の話に興味を持つことから始めてください。
「聴く」と「共感する」スキルを繰り返すことで、今まで知らなかった子供の一面を何度も発見できるでしょう。
そして、情報が集まってくれば、まず「聴く」「共感する」ステップが容易に行えるようになります。
そのうち子供の心に届く良い質問が自然に思い浮かんでくるはずです。
自分には普段どんな質問をしていますか?
人間は意識の中で絶えず「質問と答え」のプロセスを繰り返して、行動しています。
例えばあなたは今、夕食の支度について考えているとしましょう。
「今日は夕食を何にしようか」「じゃがいもがたくさんあるのでカレーはどうだろう?」「カレーは確か先週も食べたから、シチューがいいかもしれない。」「では、買い物では何を買ってくればいいだろう。」
このように自分の中で質問と答えの応答が繰り返されます。
それでは、あなたは普段どのようなトーンで自分に質問をしているでしょうか?
たとえば、「夕食にカレーはどうだろう?」と考える時、「カレーは先週も作った。どうして自分はいつも手抜きなんだろう。どうしてこんな遅くまで献立を考えていなかったんだろう。こんな時間まで今日も何をしていたんだろう?」などと自分を攻めるような質問をしていませんか?
もし、自分にいつもネガティブな質問をしたり、ネガティブな答えを返したりするのが習慣になっている場合、子供への質問も意図せずネガティブなものになっている可能性があります。
そのような時は、まず、質問で自分を責めることをやめてみましょう。
長年心の中で自分を糾弾してきた場合、すぐに自分へのネガティブな応答を止めるこはできません。
初めは「今、自分はネガティブな質問を自分にしているな。」「今、自分は自分を責めているな。」と感情を認めるだけでも大きな効果があります。
自分へのネガティブな質問、糾弾する質問を意識することで、チャイルドコーチングの質問をする時でも自分が子供を責めるような質問をしているか、そうでないかが判断できるようになります。
その質問は大きすぎませんか?
子供へ質問する際、その質問が大きすぎて(難しすぎて)子供が答えられないこともあります。
大きな質問や難しい質問は、具体的で少し考えて答えられるような小さな質問に砕いてから質問してみましょう。
「将来どのような人間になりたいの」などの質問は、良い質問ではありますが、子供にとっては質問の内容が大きすぎるかもしれません。
そのような時は、質問を小さく噛み砕いてあげることにより子供により具体的に考えさせる助けになります。
小さな質問は大きな質問にくらべ考えやすく、そのため子供が自力で問題解決にたどり着くことが容易になります。
例:「将来どのような人間になりたいか」子供の気持ちを聞く
親: 将来はどんな職業についてみたい?
子: お医者さん
親: お医者さんなんだ。どうしてお医者さんになりたいの?
子: お医者さんはお金持ちだから。
親: お医者さんはお金持ちなんだ。
子: うん
親: お金持ちだとどうしていいの?
子: お母さんにたくさん物を買ってあげられるよ。
親: ほんと?ありがとう。優しんだね。他にはどんないいことがあるの?
子: お金でお金のない人たちを助けられる。
親: 人を助ける人になりたいんだね。
子: うん!
※「将来どのような人間になりたいか」という質問を、いくつかの具体的な質問に小さくカットして行いました。
その結果、人助けをするような人という大きな像が現れました。
その質問は、質問された子供がわくわくするような質問ですか?
普段、自分を落ち込ませるような質問をしている場合、「質問されてわくわくする質問」をすぐに思いつくことは難しいはずです。
それでは、まず自分がどんな質問をされたら気持ちが楽しくなるかを考えてみましょう。
たとえば、自分に「老後を一体どうするの?」という質問を自分にしたところ、なぜか気持ちが暗くなりました。
それでは、「引退したらどんなことをやりたい?」と質問を変えてみましょう。
今度は質問により気持ちが明るくなったのではないでしょうか?
「夕食を早く考えなくちゃ」と自分に言う代わりに「夕食は(自分は、又は家族は)何が食べたい気分?」と自分に聞いてあげてください。
「作らなくてはいけないもの」より「作りたいもの、食べたいもの」と考えるほうが、気持ちが明るくなるのではないでしょうか?
このように、自分の中で普段行われている「会話」をポジティブな言葉、質問に置き換える練習をしてみてください。
とはいえ、ネガティブな質問をポジティブな質問に変換するのは最初は難しく、つい自分の気持ちを心配で暗くしてしまう質問が止まらなくなってしまうかもしれません。
そんな場合でも、先ほどの「自分を責める質問」と同じように、始めは「今の質問は気持ちが暗くなる質問だった」と認識することからはじめましょう。
認識できたら、その質問を「わくわくする質問」に言い換えてみます。
気持ちを暗くする質問例:
親: そんな成績で一体将来はどうするの?
気持ちを明るくする質問例:
親: ●●君は将来何をしてみたい?
子: お医者さんになりたい
親: お医者さんになるにはたくさん勉強しなければならないよね
子: そうだと思うよ。だから大学に入ったら頑張って医学の勉強するよ。
親: そう? でも、どんな勉強も小学校の勉強が基になるんだって。将来
お医者さんになるために、小学校の勉強も今がんばれるかな?
子: えー。今の成績も関係あるの?
親: 例えば国語ができたら、大学の本も良く読めるんじゃない?
子: そうか。 じゃあ、今の勉強もやらないといけないのかー。
※将来何をしたい?というポジティブな質問から始まった会話で、子供は明るい気持ちのまま会話を続けられています。最後には「現状の調整の必要性」を自分で実感できました。
「こんな成績で将来は一体どうするの?」というネガティブな質問で会話が始まった場合、子供は途端に不安になり、嫌な気持ちになるでしょう。その結果、勉強しようという意欲はなくなってしまいます。
その質問の目的は何ですか?
最後に、復習になりますが、チャイルドコーチングの質問をする際には「その質問の意図」を考えてみるようにしましょう。
その質問は子供の思考を助ける「助け手」ですか?
子供の存在や気持ちを認めてあげる「合いの手」ですか?
それとも、答えに困ってしまうような皮肉な質問でしょうか?
質問されたほうが暗い、嫌な気持ちになる質問でしょうか?
コーチングの質問は「暗い夜道を歩きやすいように照らす懐中電灯」のようなものです。
質問をする時、あなたが暗い夜道で懐中電灯で子供の足元を照らしている場面をイメージしてみてください。
あなたの求めている情報ばかり聞き出すような質問をしている時、懐中電灯は子供の足元ではなく、あなたの見たいものを照らしているでしょう。
子供を糾弾するような質問をするなら、それは、懐中電灯を子供の目の前に押し付けて何も見えなくしている行為と同じです。
親が「こちらがより良い思考だよ」と導く質問をしてあげるなら、それはしっかりと子供の足元を安全に照らしてあげていることになります。
- 質問をする前に確認してみましょう-情報は十分得ましたか?
- 小さく噛み砕いた質問ですか?
- 明るい気持ちになる質問ですか?
