「私はこう思った」というメッセージでフィードバックしよう
先回までのレッスンで、「温かいボディランゲージと相手の言葉をそのまま繰り返すミラーリングで共感の気持ちを表す方法」を学びました。
今回は、聞き手(親)が発言する形の共感メッセージの方法を学習しましょう。
I message (アイ・メッセージ)とは?
I message(アイ・メッセージ) の I(アイ)とは、英語で「私」の意味です。メッセージを発するとき、「あなたは●●です。」と言うかわりに「私は●●だと思う」と、主語を「私」にする表現方法です。
I(アイ)メッセージの反対は「You(ユー)メッセージ」で、発言の主語が「あなたは~だ」と表現されているメッセージです。
Youメッセージでは発言者によって「あなたは●●です」と断定されてしまうので、このメッセージを受け取った人は良い気持ちがしません。漠然と釈然としないか、場合によっては怒りだしてしまうかもしれません。
このように、Youメッセージには決めつけや評価、非難の響きがあり、そのためこのメッセージを受け取った人は反論したくなります。
大人でも、「あなたって●●だよね」という発言をされると、たいてい憤慨した気持ちになってしまうのではないでしょうか?
しかし、私達の会話は、意識しないと「Youメッセージ」方式で行われがちです。
子供の話を一旦聞き終わり、共感のメッセージを発したい時は「I(私)」を主語にしたアイ・メッセージを使いましょう。アイ・メッセージを使えば相手に非難や後ろめたさを感じさせずに、あなたの気持ちを伝えられます。
例1: Youメッセージの発言
親: どうしてこんなに遅くなったの?あなたはいつも連絡もしないで遅くなるんだから、いいかげんにしなさい!
子: (友達のせいなのに自分のせいにされている。事情があったのに聞いてくれない)うるさいな!いつ帰ったって勝手でしょ!
※親がYouメッセージで発言したところ、子供は決めつけられたと感じ、説明したり会話したりする気持ちをそがれてしまいました。また、その言葉に対戦するために親を傷つけるような発言をしてしまいました。
例2:I(アイ)メッセージの発言
親: どうしてこんなに遅くなったの?(わたしは)連絡なしに遅いから心配したよ。
子: ごめんね。でも友達が待ち合わせに来ないからそのまま帰れなくって。
※親がアイ・メッセージで発言したところ、子供は非難されてるとは感じず、穏やかに説明に入っていきます。
例3: Youメッセージの共感理解発言
子: 友達が待ち合わせに来なかったから一時間も待ってたら遅くなっちゃった
親:(あなたは)ちゃんとお友達に確認したの?(あなたは)そそっかしいから(あなたが)時間を間違えたんじゃないの?
子: 違うよ!それにちゃんと確認したよ!
※Youメッセージで発言したところ、親切で提案やアドバイスをしたつもりが子供を憤慨させてしまいました。子供は思わず親の発言に反論するような会話をします。
例4: I(アイ)メッセージの共感理解発言
子:友達が待ち合わせに来なかったから一時間も待ってたら遅くなっちゃった
親:(私は)お友達が来なかったら確認してみたらいいと思うよ。(私は)勘違いで時間を間違えるってこともあると思う。
子: かもね。でも(私は)確認したつもりなんだ。もしかしたら伝わってなかったのかな?
※親がI(わたし)メッセージで反応したところ、子供は親の意見を素直に考慮する余裕をみせました。親のメッセージは自分への非難ではないので、それから身を守ったり、反撃する必要がなかったからです。
なぜI(アイ)メッセージは難しいのか
意識していないと人の会話は「Youメッセージ」になりがちです。なぜでしょうか?
ひとつに、日本語の構成が主語(「わたし」や「あなた」)なしで成立する言語であり、日頃から主語を濁す傾向にあるからです。
主語を省くと話をある程度、話の責任を曖昧にしておくことができます。
日本人は「私」という主語を入れて発言の責任をしっかり明記するような会話をすることが苦手です。
ためしに「私(又はお母さん、お父さん)」をつけて会話をしてみてください。何気ない会話でも責任が生じるため、発言に勇気がいるのではないでしょうか?
しっかり主語を「私」と断定することで、話の責任を自分が全て負うことになるからです。また、「私」という主語を入れることで恥ずかしい気持ちになるかもしれません。普段、主語を自分に断定する発言をしていないと、「私」という名前付きで発言するのは意外に難しいものです。
それを克服するには、普段から「私」という主語を省略せずにしっかり発言することが必要です。
このように、「あなたはこうでしょう」という決めつけのYouメッセージを、「私は●●だと思う」アイ・メッセージに切り替えようと思うだけで、発言そのものを考えるチャンスが与えられます。
アイ・メッセージで発言しないといけないと思うと、「言わなくてもいいかな」という気持ちになるかもしれません。そんな時は無理に発言しなくてもいいのです。
こうして、アイメッセージを心がけることにより、子供を非難したり追い詰めたりするタイプの発言が抑えられるのです。
また、「私は」(アイ・メッセージ)は発言に勇気や責任が必要なだけに、力もあります。
「帰りが遅いから心配」という言葉も、「私は心配だったよ」とアイ・メッセージで発言すれば、子供の心には強く訴えることができるでしょう。
子供が荒ぶる態度をしていても、心の中では「心配させて悪かった」という気持ちになっているかもしれません。
Youメッセージは容易、しかし破壊的
一方で、「あなた(もしくは子供の名前)」を主語にする発言は比較的簡単です。「あなた」が主語になっていれば発言の責任者は親のあなたではなく、対話相手の子供だからです。
これはインターネット上で、名前を明らかにしないで発言できる掲示板にひどい発言がたくさん行われているのと似ていますね。
ですから、Youメッセージは親が感情的になっていればいるほど多く使われ、子供はYouメッセージを、「非難や批評、決め付け」と受け取ります。内容によっては子供の人格や存在自体を否定されている気持ちにさえなっているでしょう。
例: 改まった席に子供がふさわしくない服装をしたがる場面
Youメッセージで対応した場合
子供:私はこの服が着たいからこれで行く
親:ダメだ!(おまえは)だらしない。この服に着替えなさい
子供:えー、こんな服絶対嫌!
※子供はこの会話で、自分の意見は否定され、さらに親から「あなたという人間はだらしない」と決めつけられたと感じました。それで、自分というアイデンティティをかたくなに主張しなければいけない展開が起こりました。
I(アイ)メッセージで対応した場合
子供: 私はこの服が着たいからこれで行く
親: ●●ちゃんはその服がいいと思うんだね。(ミラーリング)
でもお父さんは、改まった席にその服はだらしないと思うんだ。
子供: ふうん。そうかな。私はそう思わないけど。じゃ、お父さんはどの服ならいいと思うの。
※親がミラーリングを行うことによって子供の意見は一度受容されました。それで子供は安心し、もう一度自分の意見を発言します。その後、心を傷つられることもなく「(あなたは違うと思うけど)私はこう思う」という親の意見に譲歩しました。
- アイ・メッセージは「私」を主語にしたメッセージ方法
- Youメッセージは相手を主語にしたメッセージで相手を傷つけることがある
- 発言する時は自分を主語にしたアイ・メッセージを使って発言に責任を持とう

